2012年12月11日火曜日

長期投資で受取配当を効率よく増やそう その2





その1では

X A + B + C – D – E ± F

X=受取配当金の総額
A=ニューマネーで買った株式のもたらす予想配当額
B=受取配当金を新株購入に再投資した場合の予想配当額
C=保有株式の増配
D=保有株式の減配
E=保有株式を売却した場合の予想配当額の減額部分
F=外国株における為替影響額


この数式を念頭に配当金を雪だるま式に増やしましょう、ということを述べました。

Xを極大化するために、まず考えるべきことは、Dを限りなくゼロにすることです。このためには、投資企業の配当政策をしっかり理解する必要があります。それなりのEstablishmentされた企業なら、減配を嫌う傾向にあるので、いったん引き上げた一株配当金を普通は引き下げません。サッカーでいえば守備的なイタリア代表の代名詞となっているカテナチオ的な発想かな?

出来れば避けるべきタイプの企業としては、例えば

1:資本集約型の製造業(損益分岐点が高く、利益率が低く、継続的な設備投資が必要な場合)
2:借入金の多い企業(FCF;営業CF-投資CFの残高利用の優先順位に借入金の返済となってしまう企業)
3:そして、減配実績のある企業(配当政策への優先度が高くない証拠。例:総合商社)

これって、日本の得意とするモノづくり系の企業のかなりの部分が入ると思いませんか?

もちろん、資本集約型の製造業であっても、減配を行わず、増配を継続する企業もありますので、そういった企業を選択すべきです。

日本企業では、そのように増配を継続する製造業をあまり知りませんが、優良企業と評価の高いコマツでさえ、09年に大幅減配を行っています。

一方、コマツのライバルであるキャタピラー(CaterpillarCAT)は19年連続増配となっています。

また、アメリカの有名な鉄鋼メーカー(電炉)にヌーコア(NucorNUE)という会社がありますが、同社は39年連続増配となっています。鉄鋼業のような資本集約型産業でも、40年近く連続増配を遂げている点は特筆ものだと思います。新日鐵だと、特にリーマンショック後は凸凹しています。

また、ユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies; UTX;業種的に三菱重工に似ている)でも19年連続増配を記録しています。三菱重工もリーマンショックで減配しています。

私の保有するキヤノンは、連続増配株ではありませんが、過去30年間、減配は一度も行っていません。

減配の可能性の少ない企業の財務的な特徴は、利益率が高く、設備投資が比較的軽く、借入金依存度の比較的小さい企業と言うのが最低ラインかもしれません。

総合商社は、万年(本当に万年)就職人気ランキングと平均給与ランキングの上位常連企業であり、サラリーマン(ウーマン)の憧れの企業かもしれません。実際、(少なくとも学生当時は)優秀な人が多いです。しかし、そういったプレステージと配当投資は分けて考えた方が良いと思います。
商社の主要収入源は今や資源です。コモディティなのです。当然BSの資産の部には資源関連の権益がごっそりあります。一方、負債・資本の部を見ていただくと、いわゆる自己資本比率は最大手の三菱商事ですら28%程度しかありません。借入金への依存度が非常に大きな財務体質になっています。
つまり、借金で石炭や鉄鉱石を買って、日本や中国の鉄鋼メーカーに転売するビジネスがメインなのです。ファイナンスの原則として、レバレッジが高いほどキャッシュフローの安定性を求められるのが常です。コモディティからのCFが安定的か否かは各人のご判断にゆだねます(私は当然NOです)。
当然鉄鋼の価格も乱高下しますね。

大手商社が潰れるとは思いませんが(注:2000年ごろの金融危機時に、中堅総合商社がどのような末路となったかよく思い出してください)、そういうリスクを踏まえて(投資する場合は)投資しましょう。

話が少しそれましたが、キャッシュフローが安定して利ザヤが厚い企業、どちらかと言えば設備投資で収益を伸ばすのではなくブランドやビジネスモデル等バランスシートに掲載されないIntangible Assetに価値がある企業、ということになりますね(したがってROAROEが高い傾向にありますね。要するに優良企業ってことになりますが…)。投資ではなく、アタマを使って金儲けが出来る企業と言うことでしょうか?

新聞等でよく、日本のメーカーが凋落したのは、設備投資を怠ったから、という論調を目にしますが、配当投資家は投資合戦に陥るような競争ポジショニングで居続ける企業には減配リスクがある、という認識を持つべきです。
ジェレミー・シーゲルの「株式投資の未来」では、「投資は資本を食う豚」である、と引用されていますし、ウォーレン・バフェットもCEOの資本配分政策にはかなり辛口なことを言っています。アメリカでは、(維持更新ではなく、新規の)設備投資をする場合、投資家の期待利回りを超える案件でなければ容認されない、という原則を各CEOは課せられています(そして初期的な開発・投資等はベンチャーが担って、程よいところで、大企業が即戦力として買収するというモデルが確立されている。創業者はまた別の事業でひと山稼ぐ)。

サービス業で、例えば、小売業などでも、出店競争が激しい企業と言うことであれば、同じような目を持つべきだと思います。もっとも、小売・外食の場合、設備投資で決まる、というよりブランド力や業態力がモノを言う分やや違う側面がありますが、ある程度業態が固まって(と過信して?)、一気に店舗網を全国区に広げようとしている成長期の企業の多店舗化は、私の経験では、成功する場合(ユニクロ等)と失敗する場合に二分化され、後者はその後悲惨な末路を辿っているので、要注意です(失敗する企業は、立地選択ミス・サプライチェーンが未成熟だったため混乱・人材が追い付かないなど)。

結局、野球やサッカーのようなスポーツでも同じことが言えると思いますが、「勝ちパターン」を確立しているチームは強い(あるいは負けにくい)のと同じよう、企業選択でも「勝ちパターン」をしっかり持っている企業への投資が望ましいと言えると思います。

しかしながら、投資したすべての企業で減配が全くない状態を継続し続けることもまた容易ではありません。何が起こるのかは誰にもわかりません。「絶対」はないのです。
そのリスクを軽減するためには、分散投資で対抗するとしか言いようがありません。一旦減配を決めると、結構なパーセントをカットしますから。
20082009年のリーマンショック時では、ファイザーやゼネラル・エレクトリック(GE)といった「元」連続増配企業が配当カットに追い込まれました。GEでは50%以上の一株配当のカットを行っていました。

その2では、減配を避けると言うことは、とにかく、「敗者のゲーム」をしないための要件だと言えると思います。

このシリーズでは出来るだけ簡潔に書こう、と思っていましたが、ダラダラ長くなってしまいました。




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7 件のコメント:

  1. 無料で読めるのが信じられないくらい素晴らしいエントリですね。自分もアタマを使って金儲けができる企業に分散投資していきたいです。

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    1. コメントありがとうございます。
      色々書いていますが、結局は世界的優良企業に落ち着くのですが…。それでも目的達成のためと思っています。

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  2. いつも素敵なエントリを有難うございます。
    当方の知識で一部補足します。

    新日鉄にとっての国内需要は実は国外需要(なぜならば国内の需要家が中国に輸出しているから)によって変動し、対するヌーコアはあくまでも米国内のGDPによって変動し、ここが事業の安定性につながっています。ちなみに、ヌーコアの電炉業界と新日鉄の高炉業界とは似て非なる業界です(高炉は鉄鉱石からの製鉄であり輸出有、電炉は鉄スクラップからの製鉄であり輸出無)。国内電炉大手の大和工業(5444)の財務推移をみられると参考になると思います。(どちらにせよ投資対象ではありませんが・・)

    ユナイテッドテクノロジーズはエレベーターを作っている点では三菱重工と同業ですが、空調(キャリア)、エレベーター(オーティス)、ヘリコプター(シコルスキー)、ジェットエンジン(P&W)で高いマーケットシェアを握っており、受注生産的な三菱重工とは産業が同じでも収益構造は相当に安定的です。ただ、ダウとほぼ同程度のボラティリティの割には超過収益性も無く、3M同様に平凡なエクセレントカンパニーです。

    総合商社の自己資本比率はご指摘の通りであり、当方も投資対象ではありませんが、投資は自己資本の範疇で実行しており、借入は主に取引用の運転資金見合いです。自己資本比率の低さは取引に係る営業債務の影響が大きく、これをもって高リスク経営とは言い切れません。2000年前後の総合商社(もしくは今の丸紅)と今の総合商社(特に三菱と三井)では相当に財務体質に差があります。
    面白いのは、利益成長にしたがって普通はBSが拡大するところですが、三菱と三井のBSはここ10年ほとんど拡大していません。つまり、営業債務と借入の減少が、自己資本の充実とセットで進んでいる証左です。

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    1. コメントありがとうございます。色々ご指南いただき光栄です。
      全く五分で比較するのは容易ではないことは承知していますが、投資家としては、セクター分散で銘柄をピックアップする場合、電炉でも高炉でも素材産業からピック、資本財セクターからピックアップするという点では比較は可能ではないでしょうか?
      結局は各社(特に日本企業は)如何に、収益を安定成長させるのか、というのは大きな課題であるはずです。その仕組みを作るためにポートフォリオマネジメントを行うはずです(日本の場合はそんな簡単に事業売却やリストラが出来ないという点で、やや不利ですが)。

      総合商社に関しては、おっしゃる通りかと思います。ただ資源に依存した会社なら、いっそのことBHPビリトンでも買った方がすっきりしますし、BSも強固で配当も安定成長してよりよいとは思います。

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    2. 仰る通り、素材や資本財といった括りで投資セクターを考える限り、比較に全く問題はありません。

      ただ、日本企業に勤める者として、事業の収益性の低さや不安定性の言い訳をしたかったのです。(投資対象にはならないのですが、厳密に比較対象を選べば、決して悪い会社じゃないですよ、という心の叫びですw)

      新日鉄との比較であれば米国の高炉最大手であるUSスチール(X)が適当であり、同社は業績は3期連続赤字で、減配しています(新日鉄の赤字は1期のみ)。これは高炉の性質上、鉄鉱石や原料炭の価格変動に対して固定費の変動費化が難しく、どうしても他業種に比して収益が不安定になります。そういう意味で新日鉄とヌーコアの差異は、日米差異や経営力の優劣ではなく、業種差異といえると思います。(投資銘柄が主題の中、So what?と皆様に言われてしまいそうですが・・・。そして、当方もこの業種は投資できません・・・。)

      総合商社を買うならBHPというのも、資源株として総合商社を捉えたときの中途半端感からくるものと思いますが、総合商社の底堅い業績推移は、資源ピュアプレイではないからこその魅力であり、危機が来るたびにコングロマリットの利点が、バブルが来るたびにピュアプレイの利点が賞賛されます。(選択と集中が、時に企業の継続性を損なわせることも、経営者は常に意識しています)

      ただ、本質論として株主を見ていない銘柄への投資はやめた方がいい、という観点では完全に心から賛成します。日本の大手企業は今でも尚、株主軽視が甚だしいと思いますし、現に当方はホンダとキヤノン以外の国内大手には投資したことがありません。

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    3. たま様
      ご指摘ありがとうございます。個人的には電炉の技術が進んで高炉に近い品質になる日がいつか来るのでは、と思うことがあります(クズ鉄なので限度があるとは思いますが)。

      色々ご示唆いただき感謝しております。本田とキヤノン以外に日本株に投資されない、となるとどのようなポートフォリオか興味がわきます。

      私も日米(英・加あり)比率が3:7程度ですが、日本株の「持たざるリスク」をつい感じてしまうところです。

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  3. いえいえ、貴殿の素晴らしいブログがあるからこそ、当方もコメントが出来る次第です。

    当方のポートフォリオは、日米比は2:8くらいです。日本株は時価総額50億円~2000億円の小型~中型株がほぼ全てです。米国株は主にローボラティリティな生活必需品、REIT、パイプライン銘柄を中心に、オプションを織り交ぜて投資しています(貴殿ブログも参考にさせて頂いています)。また、いずれもローボラティリティ銘柄の選択と、口座のレバレッジ水準をアクティブに調整することでアルファを生むことを目指しています。

    日本株という枠での評価はよくわかりませんが、中小型株は未だディスカウント状態と思われ、バリュエーションの修正がまだ続くという印象です。

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