2016年2月28日日曜日

「画期的」新薬の開発と医療財源 小野薬品工業「オプジーボ」

大和証券さんの小野薬品工業のレポートを読んでびっくりした。

小野薬品工業といえば、今を時めく「オプジーボ」という新薬を米ブリストルマイヤーズ・スクイーブ(かつてピーター・リンチさんが絶賛し、「ビジョナリー・カンパニー」にも選ばれていましたが、近年新薬の開発がうまくいっていなかった)と共同開発に成功し、将来の収益力が爆発的に向上することが期待されている、日本医薬品業界の切り札のような会社です。

私は「オプシーボ」が通信業界に「iPhone」が誕生した時と同じぐらいの興奮を覚えたぐらいの新薬です。


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PER
15/3期実績ベース 164倍、16/3期予想ベース81.3倍、17/316.3倍という恐ろしい業績予想です。
ちなみに営業利益は各々、147億円、331億円、1,733億円というスーパー級。

この「オプシーボ」の何がすごいのか、というと、自分の免疫作用を利用してがん細胞をやっつけるメカニズムが(おそらく初めて)臨床実験上で有効に証明され、審査が亀のようにノロい日本の厚労省で新幹線並みのスピードで承認を得た点です。

(その辺のクリニックでやっているがん免疫療法というのは保険認可外の100%自己負担の「民間療法」と言われていますが、「オプシーボ」は、医療保険を使った「治療」です)

がんというのは、人間誰でも毎日のように発生するのですが、それを自己免疫が殺すので、腫瘍に至らずに済むというのが健常者のメカニズムです。しかし、何らかの遺伝子等の異常により(多くは炎症やウイルスと言われているが、完全に証明されていない)、自己免疫の働きがおかしくなり、がん細胞が勝手に増殖し、腫瘍化する、というのが発病のプロセスになります。

したがって、自己免疫が正常に作用するかしないかが生死を分けます。

そして、がんになると、自己免疫ががん細胞を発見できなくする異常な状態になってしまいますので、がん細胞が増殖する。

それは、がん細胞が勝手に自己免疫から逃れるための「煙幕」のような成分を発している、その「煙幕」を取り除こう、というのが「オプシーボ」の薬としてのメカニズムです。
「煙幕」(専門的にはPD-1抗体と言われる)がなくなると、自己免疫でがん細胞をやっつけてくれて、がん腫瘍が縮小するといわれています。
 
出所:東洋経済オンラインから
皮膚がんの臨床試験では、手術ダメ、抗がん剤治療ダメ、もう助かる見込みがない、という患者さんに「オプシーボ」を投与したところ、2割ぐらいの患者さんが2年ほど延命できた(試験期間が2年ちょっとだから)という衝撃の事実が生まれました。

肺がんの患者さんにも同じように投与したところ、やっぱり、少ない確率ですが、延命が期待できる結果となり、厚労省は(世間の批判をかわす目的もあり)、Phase2段階で見切り承認しました(少ない臨床試験対象者でも、画期的であると考えられる新薬候補はさっさと承認し、普及してからデータを集め、それで再度承認審査を行う、という制度ができた第一号案件)。

これだけ画期的と言われる「オプシーボ」は体重60キロ程度の成人男子が1回服用するとなんと88万円! だいたい三週間おきに服用するらしく、1年間服用すれば1500万円とのことです。

長々と前提条件を書きましたが、大和証券さんのレポートは、現場医師にインタビューしたところ、大半の肺がん患者さんが、「オプシーボ」の利用を希望する、ということだった。

「そんな高い薬を希望するの?」と思われるかもしれませんが、国民皆保険制度のおかげで、自己負担は3割で済みます(高齢者になるほどその負担は少なくなる)。

それでも500万円かかるじゃない? と思っているかもしれませんが、「高額療養費制度」(所得に応じて、一定以上の医療費がかかるとそれ以上の医療費が社会保険で払い戻しされる制度。年収600万円ぐらいの人なら、月5万円以下でだいたいすむような計算になります。

年間1500万円の薬が60万円の負担で済み、きつい抗がん剤のような副作用もなく(副作用はあるけどもっと軽いらしい)、薬のメカニズムも、人の体のメカニズムを利用した姿で治療するというわかりやすさが良いようです。

現在、この薬の適用が可能な症状の肺がん患者さん全員に、もし仮に投与したら、年間の薬代が8900億円になる、と試算しているようです(年間5万人)。

全ての患者さんに適用はむつかしいと思いますが、それでも、ある程度重度の患者さんが「強く服用を望んだ」場合、現場の医師は倫理的に拒否ができないようです(現在はまだ適用基準が少しあいまいな点があるようです)。

さて、画期的な新薬は、特に重たい病気の患者さんほど渇望するグッドニュースです。しかし、ご存知の通り、医療保険財源には限度があります。
政府は一生懸命ジェネリック薬の推進で、この増大を小さくしようとしています。

医療技術も進んで、なかなか「画期的な新薬」も開発がむつかしくなってきています。そういった中で、がん免疫療法などという次世代の治療の先駆けとなるような新薬が生まれて、開発者側のインセンティブをケチる(つまり「オプシーボ」のような薬の薬価をもっと引き下げる)と日本の薬学・科学の進歩にも影響を及ばせてしまいます。

アメリカでも日本ほどでもありませんが、似た様な状況になってきて、「医療経済性」(本当にそれだけ価値があるの?)という言葉が脚光を浴びつつあります。

我々が薬局で処方箋を持っていくと、ジェネリック薬を強く勧められると思いますが、そのような「節約」は「オプシーボ」1回分で吹っ飛んでしまいます。

これはC型肝炎治療薬で今、飛ぶ鳥を落とす勢いの「ハーポニー」でも同じことが言われました(治療不能といわれたC型肝炎の患者さんがこの薬を服用すれば、9割以上の確率で完治するといわれる魔法の?薬。だが12週間で800万円程度の薬代がかかるらしい。それでも完治率が9割を超えるなら、ということで世界中で大ヒット)。

なかなかむつかしい時代になってきました。患者さんの立場になると、すごく待ち望んだ薬であることは変わりなく、生きる権利や倫理的にも何とかしてあげたい、という気持ちはだれにでもあるでしょう。


消費税が20%になってしまう日も近いかもしれません。。。(決して希望しませんが)

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