2013年5月23日木曜日

北米「非在来型エネルギー」と投資戦略 その8 シェール革命、日本のLNGコストは本当に安くなるの???

当ブログは、出来るだけ少ない所持金で、出来るだけ多くの配当収入を得るためにアレコレ考えて投資している私の記録帳のようなものなのですが、どういうわけか、検索ランキングではMLPMaster Limited Partnership;マスターリミテッドパートナーシップ、で辿りつかれる方が多いようです。
人気記事でも、パイプライン会社に関する、北米「非在来型エネルギー」と投資戦略 その4 パイプライン会社 がダントツで1位となっています。MLPに投資するとどうなるのか、をわかる範囲で噛み砕いたつもりでした(自分が投資しようと思っていましたからね)。

ちょっと意外な結果です。個人的には、『配当増加方法』あたりが最も言いたかったことだったのですけど、最近のアベノミクス相場で配当よりキャピタルゲインの方に関心が高くなったのでしょうね。配当利回りもすっかり低下してしまったし…。

記事を書いた当初とは、シェール革命に関する取り上げられ方も、少しエスカレートしている様に思われます。昨日もワールド・ビジネス・サテライト(TV東京23時)を見ていると、アメリカのヘッジファンド運用者が日本の証券会社にMLPを売り込んでいる、というニュースが流れていました(今さらかよ。なんでファンドマネージャーが金融商品を売り込むのだろうか?)。

某有名エコノミストNさんも、これまでは、「アメリカ・日本経済沈没」と散々煽っておいたくせに、シェール革命で全てが変わった、などとおっしゃっています(要するに自説の過ちをシェールで取り繕っているだけだろ)。

個人的に、シェール革命(というより、非在来型エネルギーの存在)は、非常に大きなインパクトがあると思っていましたが、「全てを変える魔法の杖」とまでは思っていません。確かにアメリカの貿易収支にインパクトを与えてドル高バイアスをもたらす可能性を指摘したことはありますが。
2012/2/19Yahoo! Financeのビデオ

経済新聞社さんが盛んに「アメリカから」(経済新聞社さんはなぜかアメリカから買うことが重要らしい)シェールガスを買うことで、エネルギー調達コストが下げられる、とバラ色ストーリーを書いています。
個人的には下手にアメリカにペコペコしなくてもいいじゃない、と思いますけどねえ。

さて本題ですが、
シェールガスの輸入で日本のLNG調達額の全体が引き下がるのか?
この根拠に使われる分析記事がなぜか、日本政策投資銀行のレポートだそうだ。同レポートを読んでみたが、政投銀の試算はMAX15%削減と記載されており(3枚目の図の3-3)、その前提も、

  1. 201212月時点におけるアメリカのヘンリーハブ(米国天然ガスの価格指標)と日本の平均調達コストとの差額が2020年まで継続すること、つまり、この先ずっとアメリカがかなり割安であり続ける必要性がある、
  2. アメリカから輸入するLNGのコストが全て同じ単価であること、
  3. 2020年までに日本が他の国のLNG事業者と新規で契約したり、更新契約する価格もアメリカから輸入する価格に合わせること、
  4. 現在申請している日本が絡む全プロジェクトが容認される前提(この前第一号案件が許可を得ただけ)、が記載されている。
 したがって、政投銀の最も楽観的なシナリオが独り歩きしている。数字はよく理解しない人が取り扱うと独り歩きし易い、という典型例である。

同レポートでは、アメリカは2030年までに最大限3000万トンしか輸出する計画が無い、と言っていて、現在日本が申請しているのは、1470万トン(先日認可された220万トンを含んでいる)。
アメリカがざっくり半分も日本に輸出を許可するのかはわからない(アメリカの立場に立てば、誰に輸出しても、同じ価格で輸出することになりますから)。

したがって、更新時期を迎える他の国LNG輸出業者が簡単に「値引き」に応じるかは、どうでしょうね?アメリカが日本にジャンジャン輸出すると宣言しない限り、既存輸出国向けの交渉力の材料にはなりにくいと考えるべきでは? ただし日本企業もシェールに相応に投資しているので、アメリカへの輸入に対する交渉力は比較的ある方だと思う(それでもこびへつらっている様なシーンばかりマスコミは流すよな)。

そもそも、アメリカで天然ガスの価格が上昇すれば、まったく逆の結果にさえなりうる。天然ガス・LNGはいったん契約を締結すると20年程度は継続的に買わなければならないのが通例で、「逆ザヤ」となっても買わざるを得ない。ただし逆ザヤリスクはそれほど大きくないとは思いますけど…。しかし、アメリカの天然ガス価格が上昇して、在来のLNG価格とのスプレッドが小さくなるリスクは大いにある。

私が経済新聞社さんの編集委員か何かだったら、引き下げるような努力はすべきだと思うが、あまり夢を見過ぎない方がいい。なぜなら「アメリカの」シェールガス輸出量は無茶苦茶増えることは期待できないから。などと書いたかもしれない(ひょっとしてそういう記事を見落としている可能性がある)。

ちなみにこの政投銀のレポート自体はよくまとまっており、シェールガスに興味がある人は読むと役に立つだろう。これを読めば新聞報道に惑わされないだろう。私が3年程度かけて積み上げた知識を20分程度にまとめている(したがって、本質はもっと深いですけど)。

私は依然、シェールガス、シェールオイルをカナダから輸入する、という代替案を支持しており、一度こちらに北米「非在来型エネルギー」と投資戦略 その7 日本が採るべきエネルギー戦略の雑感 記載しています 

カナダをお勧めする理由としてこれ以外に、

  1. カナダはブリティッシュコロンビア州が出港地になるので輸送日数が短い
  2. パナマ運河を通らないので、メキシコ湾のLNG基地で使用するタンカーより、さらにドデカイタンカーで運べて、つまり輸送効率がいい(輸送賃が安くなる)、
  3. カナダのガス価格の方がアメリカより、現時点では割安(安くしないとアメリカ人はカナダから天然ガスを買う理由が無いから)、
ガス価格+輸送賃の双方がアメリカより現時点では割安だと思います。

但し、最終投資意思決定は今後行われるプロジェクトが多いため、時間軸ではアメリカの方が早い可能性がある。しかし、アメリカにだけペコペコする必要性もないし、カナダは日本が買うと言えば、アメリカの様にもったいぶってなく、喜んで売ってくれるだろう。

ロシアもサハリン沖で最近ありましたね。個人的にはLNGにする必要ないと思いますが…。

もうひとつ、エネルギーコストを引き下げる方法は、日本の電力会社の天然ガスタービン発電施設を新型に更新することがある。
簡単に言えば、旧式車をハイブリッドカーに乗り換えて、燃費を改善する様なものだろう。同じ天然ガスや石炭を使っても、より多くのエネルギーに転換できる技術に発電施設をスイッチしていこうという発想である。

コンバインドサイクル発電などとも言われており、例えば、発電機で発電した余熱を使ってお湯を沸かして、お湯に使うガス代を節約する、等がある。六本木ヒルズ等に自前の発電施設がある(したがって、自粛しなくてよかったそうだ)。
幸い、アベノミクスの中核でもある、産業力競争力会議において、石炭発電、天然ガス発電の高効率化が議題となっており、脱原子力発電におけるエネルギー効率に向けた議論がなされている。資源エネルギー庁も前向きな模様である。これをさらに加速化するように支援していってほしいです。




産業力競争会議(3/29)における経済産業省の資料から

要約すると、日本のLNGコストが安くなるか否かは
まず、前提として今後原子力発電をどういう前提で考えるのか を決めて

プラス面として
原子力に依存できない部分を火力に置き換える、そのうちいくら天然ガスで賄うのか
LNGの調達先の戦略的分散(全体コストを引き下げるべく、ロシア、カナダを含めて総合的に)
火力発電の熱効率の改善スピードを上げる(少ないLNGで多くの発電)

マイナス面として
円安、
インフレ(一応世界的には天然ガスは原油価格連動が原則です)

が変数になると思いました。15%マイナスは現時点での前提条件を点検するとRosyだと思います。
しかし、原子力発電をどうするかは、国民的感情が入るので、難しいですね。

(LNGと関係ありませんが、週刊ダイヤモンドの小沢一郎氏へのインタビューが面白かった)

応援よろしくお願いします!

4 件のコメント:

  1. 私は、私の観点で米シェールガスにより日本のLNGは、安くなるかを書きました。

    http://aruconsultant.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-04fe.html

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    1. ある経営コンサルタントさん、こんにちは
      原油と違い、天然ガスは相対で価格が決まるのが原則です。
      一応、米国発LNGの価格はヘンリーハブ±個別+LNG加工賃+輸送費で決まると想定されています(現在許可が出ている唯一のプロジェクトがそういうフォーミュラようです)
      米国がLNGの輸出に積極的になればなるほど、ヘンリーハブの価格は上方バイアスがかかるので、全体のLNGコストの削減に寄与しない可能性があります。

      ただし、ほとんど死語に近い、日米貿易不均衡問題には大いに寄与するかもしれませんね、。

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  2. FT2013.2.26記事によれば、関西電力は、現在のLNG輸入価格より30%引きを目標にしていると。

    Other Japanese gas importers, including Tokyo Gas and Osaka Gas, are also trying to move away from oil-linked prices, even for gas not produced in the US. Kansai Electric Power, for example, signed an innovative long-term agreement where the LNG it buys from BP, sourced from various parts of the world, is linked to daily Henry Hub settlements. Kepco is hoping for a 30 per cent reduction in LNG import costs.

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  3. カナダのシェールガスについて。輸出先の本命は中国で、日本は「当て馬」ではないのか?それ以外にも、NAFTAなど課題が多いと。

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