2012年11月9日金曜日

リストラ、リストラ、嗚呼リストラ 日米リストラ比較論

ここでは、「リストラ」という言葉を、従業員の削減を主としたコスト削減政策を企業が実行する、という風な意味合いで書くものとします(要するに首切り)。

このリストラを語る時、株主の立場として語る場合と、労働者の立場で語る場合では、完全に利益相反してしまいますので、あらかじめ断っておきますが、ここでは投資関連ブログとして、株主として語るものとします(そう考えると、「サラリーマン投資家」というジャンルは非常に矛盾を抱える区分ですね)。

この決算発表でも、私のポートフォリオカンパニーの中で有名になったのは、フォードモーターの欧州工場3ヵ所の閉鎖です。欧州での生産台数を約2割削減するという大掛かりなもの。また、ダウ・ケミカルのリストラも20工場を閉鎖する、というのも大きく発表されました(20の工場のうちには日本拠点も一か所含まれる)。

1年前にはプロクターアンドギャンブルやシスコシステムズでも大掛かりなリストラが発表されています。

さらに、なかなか気付かないものの、IBMも第3四半期ではリストラを行ったようです(Workforce Rebalanceという絶妙な表現でした!さすがネーミングがうまい)。

ちょっと前はアルトリア・グループでも人員削減を行っていましたし、HSBC1年ほど前、欧州部門で大きいリストラを行いました。

外国株の企業において、リストラをやっていない会社を探すほうが難しいのかもしれません(聞かないのはシェールブームに沸いていて、ガンガン設備投資を行っているKinder Morganぐらいかなあ)。

総じてグローバル展開している企業では、中国をはじめとするアジア地域での人件費高騰に悩まされており、稼ぐ地域の報酬を手厚くして、本国の社畜?をバッサバッサとリストラしています(P&Gは北米の中間管理職を結構切った。HSBCは香港の給与を引き上げて、英国やフランスの人員をリストラした)。

これらは、リーマンショック直後の話ではなく、2011~2012年の低成長時点での話です。

一方、日本株のポートフォリオ各社では、そういった声はほとんど聞かれません。花王もJTもプリンタ事業はヒューレット・パッカードと運命共同体のようなキヤノンでさえ、リストラとまではいきません。

日本でリストラと言えば、シャープ、ソニー、NEC、エルピーダ、パナソニック辺りが新聞を騒がせています(いや、新聞が騒いでいる?)。


違いは
日本では、「リストラでもしなければ、会社の生き残りに背に腹変えられない」という場面にのみ、リストラが正当化されるようです。最後の手段のイメージ。目線は社会、すなわち外ずらにあります(後述しますが、自己保身のケースも多い)。

日本の場合、むしろ、簡単にリストラをする企業や経営者は嫌われる傾向にすらあり、「雇用を守る義務」を広く社会一般に背負っている「社会の公器たれ」、という独特の価値観に経営者は呪縛されているのではないか、と個人的には思ってしまいます。

(昔の高度経済成長時代に名をはせた、ご老体元経営者あるいは視聴率を稼ぐだけのただの評論家連中等が「雇用を守るのが経営者の義務」という趣旨を言うと、現役経営者さんも無視できなかったりする。また、経営者も自分の出身部門が赤字事業に陥っても、情が移ってリストラに躊躇したりするケースもある。最悪は、経営者が事業本部長時代に肝いりで進めたプロジェクトがとん挫しても、同様の傾向がある)

一方、米国のそれは、変動費扱いです。ジョンソン・エンド・ジョンソンでも薬の特許が切れると、担当MRが解雇されていました(かなり小さい記事でしたが)。もちろん、訴訟を受けないように、注意深く、かつ、巧妙に行われるようです。

シスコシステムズは2011年の秋に、全従業員の約9%に当たる人員をリストラしました(工場の売却を含むが、早期退職も募集していました)。

シスコやP&Gの実態をPLで確認してみます。




一方、日本有数のソニーやシャープを見てみましょう。



売上高営業利益率が15%あってもリストラを行う企業と、赤字になってやっとリストラを行うのとでは、企業体力に与えるダメージがかなり違います。

なおかつ、P&Gやシスコのそれは、利益率が示す通り、リストラを行ったとはいえ、グローバルでナンバーワン、ナンバーツーの競争力を保持する事業や製品がたくさん残っています(P&Gのパンパースやジレットはナンバーワンブランドです。シスコも相変わらずルーター、スイッチで強いし、クラウドの風に乗ったデータセンター事業でも優位に事業を進めている)。

一方、ソニー、シャープあるいはパナソニックがすぐに黒字成長路線に回復するのか、よくわかりません。追いつめられて、初めてリストラに踏み切っているからです。

米国企業は短期の利益を考えて、日本企業は長期目線と新聞では言いますが、現実は逆ではないかと思っています。米国では企業、事業の持続的成長というのが企業経営者に課された使命であり、持続的成長のために逆算的に、何に注力して、何を捨てるのか(選択と集中)を行っているのです。自社でそれが無理な場合、他社にそれを委ねるのです。

(一方、日本では、問題を先送りした結果、どうしょうにもなくなって、初めてメスを入れると言う感じ。Too Lateなケースが多い。問題先送りが長期目線とはとても言えないと思う)

選択されてしまった事業や企業は、ボロボロの赤字垂れ流し事業ではなく、ピカピカのブランド力を持つものの、会社の総合戦略から反れたものなのです(プリングルスのポテトチップス事業をP&Gはケロッグに売却しましたが、プリングルスのブランド力が落ちているなんて聞いたことありません)。

アメリカ企業のリストラは、株価下落を食い止める、つまり企業業績の悪化を出来るだけ食い止める手段として、リストラを選択しています。業績悪化防止の常套手段です。目線は投資家にあります(リストラして業績悪化を食い止めなければ、株主代表訴訟等の裁判でヤラれる可能性もあるので、そういう意味では自己保身かもしれない)。

結論として、リストラの日米比較をすると、日本は最後の手段、アメリカは常套手段と言えると思います。なぜなら、日米経営者の意識がどこにより重点が置かれているか、ということだと思います。要するに、うるさいやつの顔を見ながら経営しているんですね


勿論、アメリカでもリストラばっかりする経営者は社会的な批判を受けるケースはたくさんあります(ヒューレット・パッカードで初の女性CEOになったカーリー・フィオリーナ氏は、カリフォルニア州の上院議員選挙に立候補しましたが、「この女はCEO在籍期間中、X万人の首を切ったやつだ」とネガティブキャンペーンに会いました。ミット・ロムニーさんのようですね。やっぱり負けていました)。

現状維持以上の想像力やブレークスルー経験の乏しい日本では、リストラ後の再出発をなかなかイメージ出来ないのでしょうか(本来、敗戦後の奇跡の復興というブレークスルー経験を持っているので、やればできると思うのですけど)。

一方、自由、再挑戦、富や名声を求めて、好んで遠路(主に)欧州から移民が建国したアメリカとでは、根本的な発想が違うのかもしれません。国家・国民に流れるDNAと言いましょうか。

したがって、歴史的観点で考えると、日米を単純比較するのは、適切ではないと思います。

しかしながら、株式投資という観点からいえば、病気を初期症状から見逃さずに完治させる米国流を支持せざるを得ない、というのが私の結論です。病気持ち(なおかつ重症)の企業にリスクマネーを託すことはできません(病気が癒えていて、体力回復局面に来れば別ですが)。

いまや個人マネーも国境を超えて自由に動き回ることが出来る時代ですから。


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